original [永続の記憶] [04] 「―改変黙示録―」


1.君主による主要会議

この日の上空には、暗雲が立ち込めていた。
ここ、カルナトール城のとある一室で、アフォルド帝国、リズメルト帝国、ラッテル帝国、カルナトール王国の四国と一部の民族の君主が召集された会議が行われている。

この会議は、互いの国や領土の侵略を互いがしない、させない為のもので、全ての君主…今日に限っては、各国の君主と民族の一種であるセイラオスの民の姫巫女(ひめみこ)が出席している。
他にも民族はいるのだが、種族数も多い上に交友的ではなく不参加となっており、それぞれの君主の護衛達は、固く閉ざされた扉の向こうで待機していた。
この一室にいるのは、たったの7人…。
君主以外には、アフォルド帝王の弟と、ラッテル帝王第一皇女(こうじょ)も会議に出席していた。
今は、一つの案件を残して各自で休息をしているところだ。 ラッテル帝国の皇女は、座る事に疲れ果てたのか席から離れ壁にもたれながら、退屈そうにゆっくりと空を流れる暗雲を眺めていた。

「・・・・・」

「どうした?レティシア。」

娘が会議の席から目線を外して退屈そうにしている事に気づき、父であるラッテル帝王カルトネ=ラッテルが声をかけた。

「ごめんなさい、父様(ちちさま)…空が…曇っているなっと思って―。」

レティシアは最後まで語らず、また流れる暗雲を見ていようと視線を窓に戻すと―。

「レティシアは、まだ17歳だったわね。会議どう?退屈でしょう?」

カルナトール王女ユラ=カルナトールは、涼しげな笑顔でレティシアに話しかけた。

カルナトール王女ユラは、王女でありながらカルナトール王国の君主を務めている。
婚姻はまだで、歳は20代前半。 一昨年だっただろうか、病で女王である母を亡くしていた。 父は高齢で、今この時、病に伏せているらしい。
ユラという名は、カルナトールの君主・もしくは継承する者に継がれており、『城の主(あるじ)』という意味が込められている。
レティシアという名もまた、ユラと同様の意味が込められているが、本当の名は別にあり、ユラもまた、本当の名が別にあるのだろうか―と、レティシアはカルナトール王女ユラを見つめている。

カルナトール王女ユラは、先代と同じ白色の髪に緋色の瞳をしていた。
魔族でも民族でもない普通の人間で歳も近く、レティシアは今日が初対面であるカルナトール王女ユラに不思議と親近感を持っていた。

父とこの親近感を持つ女性以外の周りの面子は、レティシアよりも100なのか300なのか年上で、寿命も異なっていた。 アフォルド帝王は純血の魔族で、歳は3桁とだけ知らされており、リズメルト帝王も民族の類らしく、人間よりも少し長生きできるらしい。 民族の一つであるセイラオスの民の姫巫女も容姿は、若いがそれなりの歳を重ねていると聞く。

「あら、返事が出来ない程、私とのお話は退屈だったかしら?」

特に怒った様子もなく、軽い冗談を言うように微笑みながら、カルナトール王女ユラは言った。
『退屈だったかしら?』という問いに、レティシアは返答せず、カルナトール王女ユラの容姿に少しばかり見とれてしまっていた。

「い、いえ…その様な事は―。」

レティシアは、動揺した。 一応、この二人は今日が初対面である。

その二人のやり取りに険悪なムードだった、アフォルド帝王ティノス=アフォルドとリズメルト帝王壱神(いちかみ)も思わず笑ってしまう始末。
カルナトール王女ユラは、その二人の光景をみて安堵し、こう呟いた。

「イチカが笑うなんて珍しいわ。」

「・・・・・・ふん。」

リズメルト帝国に苗字という概念はない上に、 壱神という変わった名前は呼びにくく、他国へ行くと『イチカ』と呼ばれる事がほとんどであった。 初めは、お気に召さない様子だったが、美女にそう呼ばれるのも悪い気はしていない。 気がつけば、その言葉を受け入れてしまっていた。

そして何より、この二人が険悪なムードだったのには、訳がある。
何故、君主以外にアフォルド帝王ティノスの弟とラッテル帝王カルトネの娘が会議に出席しているのか―。

「ところで…だ。どうだ?俺の弟だ。素材は、悪くなかろう?」

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アフォルド帝王ティノスは、微笑みながらレティシアの方を見た。

アフォルド帝王ティノスは、どの様なモノでも見透かしそうな黄金の瞳でレティシアの視線を捕らえる。
瞳もそうだが、長めの深い緑の髪もこの男によく似合っている。 もっとも、後ろに結んでいるので正面から見たら分からないのだが―。
横にいる弟の方は、若葉に日の光が差したような眩しい緑の髪をして優しそうな翡翠の瞳をしていた。 髪は、肩下まで伸ばしているものの結ぶ気はないらしい。
ラッテル帝国とリズメルト帝国では、男が髪を伸ばす風習はなく、レティシアは『男の癖に女々しい』と心の何処かで思っていた。
兄弟らしいがそれほど似ていない印象を受けたが、こちらも口にはしなかった。

「初めまして、レティシア=ラッテル皇女。俺は、レオハルト=アフォルド。兄とは、母親が同じ兄弟なんだ。」

「あ、そうなのですか…。私は、ツ…レティシア=ラッテルと申します。」

「よろしく、レティシア…。うん、やはり言いにくいな。シアでも良いか?」

「え…?はあ、構いませんわ。」

レオハルトとレティシアの会話を、レオハルトの兄アフォルド帝王ティノスと、レティシアの父ラッテル帝王カルトネは、微笑ましく眺めていた。
そう、アフォルド帝王とラッテル帝王は、互いに交友関係をしっかり持とうと身内同士に結婚話を持ち掛けていたのだ。

リズメルト帝王イチカは、この両国の婚姻を宜しく思っていなかった。
いつでも戦争が出来るよう、水面下で実は準備をしている。
カルナトール、アフォルド、ラッテルは、大陸で繋がっているが、リズメルトは島国だった為、 会議がリズメルトで主催される事はなく、非常に戦争の準備をするには、都合が良かったのだ。

リズメルト帝王イチカの殺気にアフォルド帝王ティノスは、気づいていた。
アフォルド帝王ティノスは、純血な魔族で、この男イチカの殺気を察知する事など簡単だった。
一方、魔族の血が半分しか入っていないレオハルトは、歳もティノスより幾分若く、察知できる段階ではない。
カルナトール王女ユラは、相変わらず涼しい笑顔で見守っているし、ラッテル帝王カルトネは、娘のレティシアがこの婚姻をどう思っているのか表情を探るので忙しかった。

その光景の一部始終を姫巫女は、静かに眺めていのだが思い出したように皆に尋ねる。

「今日は、これで終わりで良いかしら?」

その問いに一同は、沈黙する。
もう一つの案件がまだ終わっていなかったのだ。 いつ解決するか分からない案件よりもすぐに片づく案件を優先に事を進めていたのだ。
姫巫女を除く一同は、深いため息する。

「年長のアフォルド帝王ティノス、貴方が仕切らなければいけないのに…どうしようもないおバカさんね。」

「すまないな、姫巫女。イチカもすまない。島から海を越えて遠渡遥々(えんどはるばる)来て頂いたというのに―。」

アフォルド帝王ティノスは、だらしなく壁にもたれ掛かっていた背筋を伸ばし、一同揃っている中央に身体を向け、号令する。

「では、会議を再会する。内容は―。」

案件が重いため、少し溜めてから事が重大であると分かるように、重く、重く、こう述べた。

「『大地のマナ』の著しい枯渇について、だ―。」


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