original [永続の記憶] [04] 「―改変黙示録―」


3.魔女

会議は、次回に持ち越されてしまった。
とりあえず、どうにか姫巫女を宥(なだ)める事にティノスは成功したらしく―。

「あー、会議は終了。次回に開催場所はラッテル。あー、2ヶ月後に執り行う。以上。」

どうにもやる気のない声でティノスは、一室にメンバーを集めてそう告げた。
一方、会議を中断させた姫巫女は、機嫌が宜しいご様子で袋を握りしめ、それは良い表情をしていた。
ティノスの腰ほどまでに伸びて纏めていた髪が肩下程の長さまで短くなっていた事に関係しているのかとカルトネが問うと、関係あると不貞腐れてティノスは返答した。
髪には、魔力が籠(こ)められている。 自然と抜け落ちた髪に使い道は、無いが、切り落とした髪には、魔力が残っている。
純血の魔族の髪だ。
通常の髪ならば半日程しか魔力が滞在する事は、出来ないだろうが3日程なら持つだろう。
3日もあれば、姫巫女の事だ。 その魔力を使って何かするであろうと、姫巫女を知る者は、思っていたに違いない。

「さあ、終わりましょう。急いでカルナトールを出てコレを使うの。」

姫巫女は、今にも飛び出しそうな勢いだった。
どうやら、その魔力の籠った髪を使って精霊を召喚を試みるらしい。
残念な事に、カルナトール王国内ではユラ以外、魔力を使用する事は出来ない。

「私はお留守番ね。」

残念そうにユラが呟いた。

ユラは、『城の主(あるじ)』だ。
このカルナトール王国を魔物や人々の呪いから守る結界から出る事を許されなかった。
ラッテル帝国とカルナトール王国の結界システムには、色々と違いがあるのだなとレティシアは思った。
ラッテル帝国では、一人で結界を守る事もない。
この17年間、母と二人で結界を維持してきた。
そして、城や国の外に出る事も許されていた。
ただし、呪いから人を守るオプションは、ついていない。

カルトネ、ティノス、姫巫女、イチカ、レオハルトは、城を離れ、城壁の外へと向かった。
カルナトール城は、城下町で出来た丘の様な頂上に建てられている。
城壁と城壁の間に城下町があるのだが、街並みが段々としており、狭い階段が何カ所かに設置されているのみだった。
段々の境に坂道がない為、馬車や馬などは使えず、移動手段は徒歩だ。 往復するだけでも丸半日かかると思われる。
いや、もういい歳をしたレティシアの父カルトネも一緒なのだ。もう少しかかるであろう。

レティシアも召喚を見てみたかったのだが、見るだけならばユラの水晶から様子だけは見る事が出来ると聞き、 行って戻ってくるもの億劫だったのでレティシアは、ユラと共に城に残る事にしたのだ。
水晶の見える範囲は、城の天辺から見渡せる範囲、平原にそびえ立つ木々は、とても小さく見える。

つまらなさそうにレティシアは、水晶を眺め続けた。

「国同士がこうして仲良く出来るのは、いつまでかしらね―」

ユラは、ふいにそう呟いた。

「いつまでも…だと思います。 レオハルト様やティノス様がアフォルドを治め、イチカ様がリズメルトを治め、ユラ様がカルナトールを治め、 生きている間は私がラッテルを支え、後の子がまたラッテルを支えます。 そうしている間は、ずっと平和が続きます。きっと―」

「そう…それはどうかしら?」

「え…」

「マナの枯渇の原因が分かってしまったら、どうなるのかしら。 貴女が一番よくご存じだと思っていたのだけれど…」

ユラは、レティシアの眼をじっと見つめた。

「そう、そういう事なの…カルトネは、そう決めたという事なのね―」

レティシアには、何の事なのかさっぱり分からなかった。

「レティシアとは、もう会えないのは寂しくなるわね。」

ユラは、レティシアの手を取った。
ユラの手は、冷え切っていた。

「若い子の手は、暖かいわね。」

「ユラ様も私とそんなにお歳は変わらないですよねー?」

ユラは、冥土の土産に教える、カルトネには内緒だとレティシアに告げた。



「私、結婚は次で、6度目なの―」



ユラは、人間ではあるが異常な魔力を秘めていたという。
見た目を他の者と違い色素を持たず、神の子だと奉(たてまつ)られた。
そして、呪いを人に放つ魔物が異常発生していた幼い頃に人柱として、レティシアの持つ呪いと同じ呪いを身体に刻まれたのだという。

ここにいる人達の多くは、様々な呪いを受けていた。 これ以上増えていく屍の山を見ていたくなかった。

ユラは、人々の呪いを進行させない為に自ら魔女の道を選び、『大地のマナ』を身体に取り込み、死の迫る激痛を乗り越えたという。
その行為を乗り越えれば、『大地のマナ』を利用する事が出来る。
それは禁忌であり、世界を見届け調整をする魔女である証だった。
魔女は、精霊を戒める悪魔と契約した忌まわしき存在であった。 この世界に魔物がいるのも魔女の所為だと信じられていたからだ。
奉られた神の子が悪魔の子だと罵られ、追放されてしまえばここには誰もいない大地が広がるだけ―。
それを恐れたユラは、魔女である事を頑(かたく)なに隠した。
夫と結婚し、子を成したフリをし、夫を看取る事を繰り返す人生だったという。 中には、妻が魔女だと知り、罵った夫もいたそうだが…

「レティシアには刺激が強いから語らない事にするわね。」

…との事だった。



二人が会話をしてる間に召喚は済まされていた。
結局のところ、カルナトールの結界が広範囲過ぎ、ティノスの髪の魔力の代償では精霊は召喚に応じる事が出来なかったらしい。

「仕方がないわ。国に戻ったら、また挑戦すればいいもの。この土地は嫌いよ。」

姫巫女は、そう言い残し城に戻る事なくセイラオス島へと戻ったそうだ。
しばらくして、召喚に同行していた一行も戻ってきたが、カルナトールにもう用はないらしく、荷物をまとめて国へ帰る事になった。
ユラは、ゆっくりすればいいのにっと言いかけたが、国を背負っている者達なのだ。 長期の滞在は、難しいだろうと悟り何も言わず、次はゆっくりしていきなさいと告げた。



城を離れ、城壁の外で待機していた馬車に乗り、カルトネとレティシアも自分の国へ帰還する。

「道中気をつけろ」

イチカは、レティシアにそう告げた。

「ありがとうございます、イチカ様。父も一緒ですし大丈夫です。」

レティシアとカルトネの乗った馬車と兵士達を見送り、イチカとレオハルトとティノスだけが城壁の外に取り残された。

「・・・・・」

レティシアは振り返り、馬車の小窓から遠ざかるその光景を眺めた。



「あまり気ノリはしないが、仕方ないだろう。」

ティノスはため息をつき、そう呟いた。 レオハルトは愉快そうにティノスの肩を叩く。

「何、弟を婿にやるのが惜しくなったかい?」

「そうじゃない、お前には早めにラッテルに婿入りし、あのカルトネの化けの皮を剥いでもらう。 剥いだら…戦争かな。何百年ぶりだろ楽しくなってくるぞ♪」

「兄さんは本当に戦が好きだね。」

「『大地のマナ』を救う大義名分がありゃ、兵士も喜んで動くさ―。イチカ。」

「何だ。」

突然名前を呼ばれたので驚いたが、イチカの顔には出ていない。

「今のは、ここだけの話で頼むよ。」

ティノスは、そうイチカに告げると、レオハルトと共に去って行った。

「・・・・・」

その場に取り残されたイチカは、地平線に消えていく二人の姿をいつまでも―。


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